小児精神保健科について
小児精神保健科では、児童・思春期専門の精神科医がお子さんのこころの問題の相談にあたります。 相談内容は、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症、限局性学習症に代表されるいわゆる「発達の偏り」に関するもの、 不安症状や気分の落ち込み、潔癖症状、不登校といった「子どもの情緒の問題」に関するもの、さらにはチック症状や睡眠の問題といった「子どもの習癖」といったものまで幅広くお受け致しております。初診の受け入れに関しましては、初診の時点で小学6年生までの児童とさせて頂いております。
私どもは、医療機関を受診する理由となった問題は、生来的なその子の持つ発達の偏りや気質、育ってきた家庭環境・学校環境、トリガーとなった出来事などが、複雑に絡みあって形成されたものととらえております。ですから、「何かちょっとした心理的な悩みで学校に行けなくなった」といったご相談でも、私どもがお引き受けできることはあると思っています。
診療科名をつけるにあたって「児童精神科」ではなく「小児精神保健科」と致しました理由もそのことをあらわすためです。いいかえれば、「明らかな精神障害」ばかりが相談の対象となるのではなく、その周辺にあるお子さんの「精神の健康が維持できない状況」の改善にも関わることで、 精神障害の予防的な役割も果たしたいと考えたからです。この流れは海外でも起きておりまして、以前ではchild and adolescent psychiatry(児童思春期精神医学)と呼ばれてきた分野が、 最近ではchild and adolescent mental health(児童思春期精神保健)という名称で呼ばれることが増えてきました。そのような背景をご理解いただけましたら幸いと思います。
なお、当院におきましては、専門病棟は設置しておりません。お子さんのこころの問題の多くは外来診療によって対応していけると考えていますが、問題が複雑に重なりあってしまっているお子さんのなかには、急いで入院環境を整備しなければならない方もいらっしゃいます。 そのような機能が当院にはありませんこと、 あらかじめご承知おきくださいますようお願いします。なお治療の経過のなかで、 そのような入院治療が必至となった場合には、専門の入院機能を持つ周辺の病院へ紹介させて頂くことになろうかと思います。その点につきまして、どうぞご理解のほどお願いします。
治療の枠組みについては、医師による一般外来と特殊外来(親子相互交流療法:PCITを含む)からなっております。医師による一般外来において診察し、方針を決めた後、 治療の方針を提案させていただき、進めてまいりたいと考えております。治療の内容は、支持的な関わりを基本とし、必要に応じた各治療プログラムの実施を計画してまいります。
臨床心理士による心理検査(知能検査、認知機能検査、人格検査など)やカウンセリングと心理教育などは、併設されている愛育研究所内の愛育相談所において実施しております。 心理検査や心理プログラムをお受けになる場合は、直接愛育相談所にお越し下さい。終了後の会計もクリニックの会計ではなく、2階の愛育会会計において処理しております。 同日の小児精神保健外来受診も可能となっております。
特別に設定した治療プログラムとして以下のようなものがあります。
治療プログラム
遊戯療法(プレイセラピー)
子どもの精神療法の代表的な技法の一つです。「子どもと同じ高さの目線で遊び心と中立性を持って遊びを見守ること」「遊びの空間と時間という治療構造を守ることが治療を守るということ」 「遊びは子どもが主導し治療者は子どもに受け入れられる方法でそれに反応すること」といったAxline流の遊戯療法論と力動精神医学的な心の発達論を援用して、 子どもの苦悩の克服と心の成長を支援します。遊戯療法の適応となる精神疾患は多様ですが、不安症、変換症、解離症、気分障害などが中心となっています。
認知行動療法
上記の遊戯療法よりもやや年長の子ども向けの精神療法です。子どもが症状を呈するに至った認知(考え方)のパターンや行動のパターンなどを、遊びの要素を加えながら洞察し、 必要に応じて修正していく手法と言えます。基本的にはある程度の回数を区切って進めていきます。愛育クリニックでの主な対象は、不安症、恐怖症、強迫症、トラウマ関連障害としています。
ペアレント・トレーニング
米国カリフォルニア州ロサンゼルスにあるUCLA神経精神医学研究所で開発された、ADHD(注意欠如・多動症)を持つ子どもの親に対するアプローチです。 ADHDの特徴を理解し対応の仕方を学ぶことで、悪循環を抑え、良好な親子関係を育むことがペアレント・トレーニングの目的となっています。 愛育クリニックでは、1回の参加者は6~8名とし、会期中にメンバーを固定した少人数クローズドグループで、隔週90分の11回プログラムで行っています。
PCIT(Parent-Child Interaction Therapy:親子相互交流療法)
米国のEyberg氏によって考案・開発された行動療法の1つです。親子間の愛着の回復と養育者の適切な命令の出し方の二つの柱を中心概念としており、 そのために親が子どもに直接遊戯療法を行い、治療者は別室からマジックミラーとビデオカメラを通して親にライブコーチングするという点が特徴的です。1セッションの長さは1回60~90分で、 通常12~20回程度で終了となります。
CARE(Child-Adult Relationship Enhancement:子どもと大人のきずなを深めるプログラム)
米国オハイオ州シンシナティ子ども病院のトラウマトリートメントトレーニングセンターで開発された、子どもと関わる大人のための心理教育的介入プログラムです。 上述のPCITの理論や枠組みに基礎を置いていますが、PCITよりも経済的・時間的制約は軽減されています。心の問題を抱えたお子さんへの対応のみならず、 一般的な子育てにも応用できるスキルの多いプログラムとなっております。 1回の参加者は最大でも6~8名とし、会期中にメンバーを固定した少人数クローズドグループで、隔週90分の4回プログラムで行っています。
[安心感の輪」子育てプログラム(Circle of Security Parenting)
アタッチメント研究に基づいて開発され海外では介入効果も実証されているCircle of Securityという親子関係支援プログラムをベースにしています。 わかりやすい映像や図表を盛り込んだDVD教材なども用いて進めていき、プログラムを通して親子関係への洞察を深めていくことを目指しています。 親子関係に焦点づけた心理教育プログラムと言えます。1回の参加者は4名程度とし、会期中にメンバーを固定した少人数クローズドグループで、毎週90分の8回プログラムとなっています。
ペアレント・クラス
子どもの誕生から思春期の終わりまで(0歳から17歳頃まで)の子どもの心の発達経過を、乳幼児期(0歳~5歳)と思春期(10歳~17歳)の二つの年代に焦点を当てて学ぶ親対象の心理教育プログラムです。 乳幼児期は親からの分離‐個体化過程とアタッチメントの発展という観点から、思春期は前進と後退(幼児返り)をくりかえしながら進行する心理的母親離れと自分作りという観点から心の発達を見ていきます。子どもの標準的な発達経過を知ることはわが子の心と疾患の特性をバランスよくとらえるための有益なヒントを得ることにつながります。
マインドフルネス・ヨーガ
ストレスと上手く付き合うための心の態度を身につけることを目的とした、ストレス・マネジメント法の一つです。 ゆっくりとしたペースで呼吸をしたり身体を動かしたりしながら、「今ここ」にいる自分を観察していきます。マインドフルネス・ヨーガを行うことによって、今の自分の状態に気づきやすくなると考えられています。このプログラムは外部の大学との連携で実施しているプログラムとなります。 そのため、参加にあたっては研究に協力して頂くことが条件となっています。常時開催しているプログラムではありません。
以上のような構造となっております。治療プログラムに関しては、ご希望があっても状態やタイミングによっては実施できないこともありますので、
治療は主治医と相談しながら状況に応じて進めていくものとお考え下さい。
医師、臨床心理士が手を携えて、常に新しい評価技法、治療技法の習得と臨床への応用に心がけて行きたいと考えております。どうぞよろしくお願いします。
医師紹介
医師名 | 役職 | 資格 | 学会 |
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小平 雅基 (こだいら まさき) |
小児精神保健科部長 | 日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会認定医、医学博士、子どものこころ専門医 | 日本児童青年精神医学会理事、日本精神神経学会会員、日本高次脳機能障害学会会員、 日本思春期青年期精神医学会会員、日本認知療法学会会員、日本トラウマティック・ストレス学会員、PCIT-Japan会員、CARE-Japan会員 |
細金 奈奈 (ほそがね なな) |
小児精神保健科副部長 | 日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会認定医、子どものこころ専門医 | 日本児童青年精神医学会会員、日本精神神経学会会員、日本トラウマティック・ストレス学会会員、日本乳幼児医学・心理学会会員、 日本青年期精神療法学会会員、PCIT-Japan会員、CARE-Japan会員 |
齊藤 万比古 (さいとう かずひこ) |
愛育相談所 所長 |
日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医、日本児童青年精神医学会認定医、医学博士 | 日本サイコセラピー学会理事長、日本AD/HD学会理事長、前日本児童青年精神医学会理事長、日本精神神経学会代議員、日本思春期青年期精神医学会運営委員、日本青年期精神療法学会常任理事、ほか |