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愛育病院

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麻酔分娩学級 FAQ


麻酔分娩学級でよくいただく質問について以下にまとめましたので、ぜひお読みください。

Q1:麻酔を始めるタイミングはどのように決めていますか?


A:陣痛が始まっていれば、原則的には産婦さんの希望のタイミングで始めています。
 本格的に陣痛が始まる前の子宮収縮(前駆陣痛)ではお産は進まずに、次第に痛みは治まってしまいます。そのタイミングで麻酔を始めると、子宮収縮は治まっているのに麻酔をしている、という状況になります。この場合、歩行や食事などを制限する時間が不要に長くなってしまう結果となるため、前駆陣痛のときに麻酔を始めることはできるだけ避けたいと考えています。
 ご自身の痛みの自覚をお伝えいただき、担当の助産師や産科医とよく相談をして麻酔の開始を決めていただければと思います。

Q2:計画分娩とは何ですか? 計画分娩はできますか?


A:計画分娩とは自然な陣痛の開始を待つのではなく、予め日程を決めて陣痛促進薬や子宮口に対する処置によって人為的に陣痛を開始させて(分娩誘発)、お産をすることです。
 産婦さんの希望で分娩誘発を行う場合以外にも、陣痛が始まる前に破水をした場合(前期破水)や分娩予定日を2週間以上過ぎてしまう可能性のある場合、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全などで分娩を早めた方がよい場合など、医学的な理由でも分娩誘発を行います。
 分娩誘発を成功させるには、母体が誘発に反応する状態である必要があります。その母体の状況というのは、子宮口の開大度、児頭の下がり具合など内診による総合的な所見により判断されます。

したがって、ご希望による分娩誘発を行う場合は、この母体の準備状態が大切になります。 分娩病棟(LDR、待機室)の混雑状況によっては医学的適応の分娩誘発を優先するため、ご希望による分娩誘発の産婦さんには、半日程度お待ちいただく場合や、その日のうちに対応ができない場合もあります。また、誘発を予定した日よりも前に、自然に陣痛が始まることもあります。

 分娩誘発をした場合の麻酔開始のタイミングは原則的にはQ1でお答えしたのと同様に、陣痛が始まった後に麻酔を開始します。経産婦さんでは早めに麻酔を開始することもあります。
 計画分娩を希望される方は産婦人科外来にてご相談ください。初産婦さんでは子宮口の準備状態がゆっくりと進むため、前述の母体の準備状態の観点から、計画分娩は難しい場合が多いとお考えください。経産婦さんの場合は、適切なタイミングで計画分娩を行える可能性が高くなります。

Q3:麻酔の方法(脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔)の使い分けは?


脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の併用(脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔)

 通常、脊髄くも膜下麻酔は硬膜外麻酔と組み合わせて行います( 図1)。この場合、硬膜外麻酔単独で行う場合と比較すると、効果が出るまでの時間が早い(およそ10~15分)、かゆみの副作用が出やすいということが知られています。
 脊髄くも膜下麻酔を併用した方が、分娩第2期の痛みのコントロールがよい印象があります。また、胎児の一過性心拍異常や血圧低下の頻度は硬膜外麻酔単独の場合との違いはない印象です。注射の手技としては複雑で、やや難しい手技になります。


硬膜外麻酔単独

 硬膜外麻酔単独では十分に痛みがとれるのに20分~60分(始めるタイミングや分娩の進み方によります)かかりますが、注射の手技がシンプルなことがメリットです。


脊髄くも膜下麻酔

 脊髄くも膜下麻酔は効き始めが早いですが、1回の注射をするのみなので、時間と共に効果がなくなります。そのため、通常は単独で行う事はありません。

図1

 当院ではDural Puncture Epidural(DPE)という、脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔と硬膜外麻酔単独の中間にあたる手技で麻酔分娩を行うこともあります。図1のように脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔では、細い針で硬膜を貫き、くも膜下腔に麻酔薬を投与してから硬膜外腔にカテーテルを留置します。DPEでは細い針で硬膜を穿刺しますが、その針から麻酔薬を投与せずに硬膜外カテーテルを留置するという方法です。
 効果の始まりは両者の中間の早さで、脊髄くも膜下麻酔を併用したときのように分娩第2期の痛みが出にくいことが期待できます。
 脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔やDPEでは2種類の注射を行いますが、多くの場合でneedle-through-needle techniqueという方法で注射を行います。needle-through-needle techniqueは、硬膜外腔まで進めた硬膜外麻酔の針の中を通して、細い脊髄くも膜下麻酔の針を刺入することで2種類の注射を1か所の穿刺で行う方法です(図2)

図2

 麻酔にはいろいろな方法がありますが、ここにあげたどの方法が一番よいというものではありません。状況に合わせて麻酔科医がどの方法で行うか選択しています。産婦さんのご希望があればもちろん考慮いたしますので、麻酔を始める前にご相談ください。

Q4:陣痛が始まる前に破水をしても麻酔分娩はできますか?


A:陣痛が始まる前に破水をすることを前期破水といいます。前期破水の場合には入院が必要になります。
 破水をしたからと言ってすぐに出産になるわけではありません。破水をしていない場合と同様に、陣痛が始まった後に、痛みの程度に合わせて麻酔を始めることができます。
 破水の後に自然に陣痛が始まる場合も少なくありませんが、破水をした後も、なかなか陣痛が起こらない場合は分娩誘発を検討します。

Q5:麻酔の薬を追加するボタンはありますか?


A:痛みはご本人しかわからない主観的なものですので、産婦さんが痛みを感じた時にご自分で麻酔薬の追加を行うことで、痛みの調整がしやすくなることが知られています。このように産婦さんご自身で麻酔薬の調整をする方法を患者自己調節鎮痛法(PCA;Patient control analgesia)といいます。

 当院の麻酔分娩では機械式のスマートポンプ(CADD Solis)を使用しており、多くの場合でPCAを利用できます。
 通常の鎮痛に必要な麻酔薬は自動的に追加されて麻酔の効果が維持されますので、何度もボタンを押していただく必要はありません。それでも痛みが出た場合には、産婦さんが自分でボタンを押して麻酔薬を追加することができます。
 記録の都合上、追加のボタンを押す場合は担当助産師に声をおかけください。過量投与にならないように、ボタンで追加できる1時間ごとの回数や麻酔薬の量には制限を設定しています。PCAによる追加で痛みが改善しない場合は、麻酔科医が対応しますので、担当助産師にお声がけください。

Q6:脊柱側弯症と言われたことがあります。麻酔分娩はできますか?


A:麻酔分娩で行う注射(硬膜外鎮痛)は一列に並んでいる背骨と背骨の隙間を通して針を刺し、背骨に囲まれている管(脊柱管)の真ん中を目指して注射を行います。注入した薬液は脊柱管の中で必要なだけ、均等に拡がることで、鎮痛(痛みをとること)効果を発揮します。
 脊椎側湾症では、背骨が真っ直ぐではなく、少しずつ回転して並んでいます。そのため、脊柱管の真ん中を目指して注射をすることが難しくなります。また、脊柱管の中で薬液が均等に拡がりにくくなる場合があります。
 従って、麻酔の注射の処置が難航して時間がかかったり、鎮痛効果が十分に発揮できなかったりする可能性があります。
 上記のように麻酔分娩の実施にあたっては注意点がいくつかありますが、麻酔分娩を行うことができます。ただし、過去に背骨に対して手術を行っている場合は、麻酔分娩ができない場合があります。そのような場合は、産婦人科外来にてお申し出ください。

Q7:背中の手術を受けたことがあります。麻酔分娩はできますか?


A:麻酔分娩で行う注射(硬膜外鎮痛)は背骨と背骨の隙間を通して針を刺し、背骨に囲まれている管(脊柱管)の真ん中を目指して注射を行います。
 注入した薬液は脊柱管の中で必要なだけ、均等に拡がることで、鎮痛(痛みをとること)効果を発揮します。麻酔分娩で注射を行う場所は、背中の下の方、腰の部分です。骨盤の骨の3~8cm上の背中の真ん中に注射をします。
 この注射を行う部分に手術が行われていると、骨や神経の周りの構造が変化している可能性があります。そのため、注射の際に合併症が起こりやすくなることや、薬液が拡がらずに鎮痛(痛みをとること)効果が不十分になる可能性があります。
 また、手術により背骨の固定器具などの人工物(インプラント)が埋め込まれている場合には、その部位への注射により、インプラントに細菌感染をおこすリスクがあります。このような場合は、インプラントを除去するために、背中の手術が必要になる可能性がありますが、当院ではこのような手術には対応できません。

 上記のように、注射をする部位に手術を受けたことがある場合の麻酔分娩には注意が必要になります。手術の部位や内容などは患者さんごとに異なります。また、リスクと得られる効果に対する考え方も様々ですので、手術の既往による麻酔分娩の可否については一律にご説明することはできません。
 背中の手術を受けたことがある産婦さんで、麻酔分娩をお考えの場合は、産婦人科外来にてお申し出いただき、麻酔科外来をご受診ください。
 ただし、背骨の手術によって人工物(インプラント)が埋め込まれている場合には当院では麻酔分娩を行いません。